コーセント帝国第二騎士団の受難












「いいかげんにしろ――――っ!!!」





雲一つない青空のした、地を揺るがさんばかりの怒声が響き渡った。


場所はコーセント帝国クロノス城内、帝国騎士第二修練場。
その修練場のど真ん中、二人の青年が対峙していた。


「シルフ!!貴様、何故いつもいつもいつも!そう逃げ回るばかりなんだ?!剣があるだろうがっ、剣が!貴様は騎士なんだぞ?剣を抜けぇ―――っ!!!」

「―――っ、うるさいなぁ。そんなに大声で怒鳴って疲れないのか?アルビス」

「誰の所為だっ!だ・れ・のっ!!!」


顔を真っ赤にして怒鳴っているのは、硬質感のある赤銅色をしたクセ毛を短く切り、琥珀色の瞳吊り上げている青年。
その様子とは反対にいかにもめんどくさそうに眼を眇めているのは、光り輝く長い金髪を後頭部で一括りにし、青灰色の瞳を気だるげそうに動かす青年。

刃を焼き潰した訓練用の剣を振りかざしながらアルビスと呼ばれた青年が怒鳴り散らす。
容赦無く繰り出される剣戟を、シルフと呼ばれた青年は軽やかな足捌きで避ける。

一方的な剣の訓練はそれからしばらくの間続いた。

時間が経つにつれて、アルビスの息も段々と荒いものになってくる。
そりゃあ二時間も剣を振りっぱなしであったのなら、息だって流石に上がってくるだろう。いや、二時間もの間剣を降り続けて漸く息が上がるくらいなのだ、恐るべきスタミナと集中力と言えよう。
そして、そんなアルビスに付き合いっぱなしのシルフも同様なことが言える。
いくら最小限の動きで剣を避け続けているとはいえずっと動きっぱなしなのだ、それで殆ど汗を流さずに涼しい顔をしているのだからある意味脅威である。

そんな二人の遣り取りを止めたのは、鋭く打ち鳴らされた拍手(かしわで)。


「アルビス、シルフ。いい加減にせんか!他の者達が呆然として訓練にならん!!」


この場を取り仕切る教官こと、コーセント帝国第二騎士団団長アイゼン・ジルバートは二人を一喝する。

教官の鋭い一喝に、それまで二人の遣り取りを傍観していた他の騎士団員は、慌てて訓練を再開させる。
アイゼンはそんな訓練風景を見て、深く溜息を吐いた。


「団長ぉ〜。だって、こいつがいつまで経っても真剣に俺の相手をしようとしないのがいけないんですよ?!」

「いや、私は大真面目に相手をしているよ?アルビス・ガバナー」

「嘘吐けっ!どこらへんが真面目なんだよ!!剣は抜かないし、俺の攻撃は避けるだけだし、挙句に汗なんて殆ど掻いてないしよ!俺をおちょくってんのかっ?!シルフ・クロイツ!!!」

「おちょくってなんかいないよ、アルビス。剣を抜かないのは手首を傷めてしまったからと言っただろう?攻撃を避けるのだって、君の剣戟を生身に受けると洒落にならないからだしね。汗を掻かないのは・・・・う〜ん、何でだろうね?」

「質問を疑問で返すな!つーか、お前、この間『手首の古傷が・・・・・』とか何とか言って俺の稽古の相手をしなかったじゃねーかっ!!その前も、前の前もっ!!みえみえの嘘なんか吐くなっ!!!」

「あははっ!ばれた?」

「〜〜〜っ!!」


飄々とした体で言葉を返すシルフに、アルビスはくわりと噛み付く。
アイゼンはそんな二人の遣り取りを見て、痛みを訴えてくるこめかみをそっと押さえた。

アルビス・ガバナー。
シルフ・クロイツ。

この二人はコーセント帝国第二騎士団の精鋭にして問題児。
アルビスはその腕は他国の武将も唸らせる程のものであるが、それに比例して破壊行動も著しい。彼の所属する第二騎士団には、連日のように彼に破壊された器物の請求者が届く。
シルフも同様にその腕は他国に知られているが、何せやる気が皆無である。
訓練とて真面目に出席しているわりに他の者と剣を交えようとしないし、予告もなしに何処へともなくふらっといなくなってしまうことなんてざらである。気まぐれさを見れば、アルビスよりも質が悪いのかもしれない。

そんな二人ではあるが、その一騎当千並の戦力を考慮されて弾き出されることなく第二騎士団にいることができる。
利益を追求した結果である。

ここで騎士団について軽く説明しておこう。
コーセント帝国には全部で七つの騎士団が有り、第一騎士団が王城の警備、及び王族の護衛に当たっている。別名、宮廷騎士団とも呼ばれている花形だ。そして第二〜第五騎士団は対諸外国の騎士団で、戦争などが起これば真っ先に借り出される戦闘要員である。ちなみに、より精鋭が多く優れている騎士団ほど番号が若い(つまりは第二騎士団が最も強い)。そして残りの第六・七騎士団は国内警備を行う(現代で言うところの警察)騎士団である。

そんな騎士を目指す者なら誰でも憧れる第二騎士団(第一騎士団は別)で、こんな馬鹿騒ぎが毎日行われているのだから頭痛の一つや二つ位してもおかしくないだろう。





そんな非日常的な日常は唐突に崩された。





「何っ?!謀反だと!!!」

「はい、皇帝の側近の内の数人が王を亡き者にせんと企てた模様です!王城を占拠して立て篭もっております!!しかも、どうやって誑かしたのかはわかりませんが、第一騎士団の者達のほとんどもその身を翻したそうです!!」

「馬鹿なっ!我らは誇り高き帝国の騎士団だぞ?!何故そのようなことが・・・・・・・・」

「第一騎士団を構成する団員の殆どは貴族の輩だからしょうがねーんじゃねぇの?」


あまりの事態に顔を青くするアイゼン。
そんな騒然とした空気の中、どうでもよさげな淡白な声が思いの外に響き渡った。
その場にいた全員の視線が声の出所に集中する。

声の主はアルビスその人であった。


「どうせ仲間に加われば、後々高い地位をくれてやるとでも言ったんじゃないのか?貴族の奴等は地位と金にしか目がないからな・・・・・・・」

「となると、残りの騎士団の者達はなし崩しで背いたんだろうと考えられるな。上の者の意向に背き難かったんだろう。私としてはそれに従わなかった者達の胆力に感心する」


歯に衣を着せないアルビスの物言いに、シルフも同調して己の考えを述べる。


「あ!俺もそう思う。そいつら、こっちに引き抜くか?」

「悪くはない。それほど強靭な意志があれば、直ぐにでも腕の良い騎士に育つだろう」

「いっその事俺たちが指導するか?その方が伸びも早いだろう?」

「私は人に物を教えるのが苦手なのだがねぇ・・・・・・・」

「ほざけっ!道連れだ。一緒に手伝ってもらうからな!シルフ」

「仕方が無いな・・・・了解したよ、アルビス」


二人は勝手に話を進めていく。
どうやって他所様の騎士団から人員を引き抜くのだという野暮なことは言うこと無かれ。
彼らが本気を起こせばできないことなどないだろう。恐らくは。


「うっし!ならさっさと王城を占拠している愚か者共を掃除しに行くか!」

「ははっ!丁度上層部の総入れ替えを考えていたところだったんだ。良い機会だ、腐った根は綺麗さっぱり排除しよう」


二人とも、めっちゃ笑顔で不穏な言葉をのたまった。

そんな二人の会話を聞いていた周りの者達は、『お前達の方が謀反人っぽいぞ?』と思ったかどうかはわからないが、動き出した二人の後を慌ててついて行く。


「この騎士団の長は俺なのだがなぁ・・・・・・・・」


アイゼンは苦笑を零しつつ、部下達に武装の準備を促した。











そうして準備が全て整った第二騎士団の者達は、城内にある広い庭園で第一騎士団の者達と対峙することとなった。


「ジオルド!王族の身を護るべき騎士団の者がその主を背くなど、恥ずべき行いだぞっ!!!」


アイゼンは相対する第一騎士団団長であるジオルド・レトナースレットにそう一喝した。
それに対し、ジオルドはにやりと不敵な笑みをその口に浮かべた。


「何、命を下す上が変わっただけのこと。我らは上の意向に従っているだけですぞ?それは背くことになどなりはしない・・・・・・・・」

「痴れ者がっ!!」


激昂するアイゼンに、ジオルドはやれやれと溜息を吐く。次いですらりと腰に帯びていた剣を抜き去った。


「上の意に逆らう反逆者共よ!大人しくこの剣の錆びとなるがいい!!」

「なんとっ!誇り高き我ら第二騎士団を反逆者呼ばわりするか?!どこまでも腐った下郎めっ!!」

『かかれっ!!!』


二人の頭の掛け声と共に、二つの騎士団がぶつかり合う。

王城内に、甲高い金属の弾き合う音が響き渡る。

が、戦況は直ぐに第二騎士団の方へと傾く。
第一騎士団は王城内の警備と王族の警護が仕事である。つまりは殆ど戦闘能力を要さない者達の集まりである。それに対して第二騎士団は対外国のための騎士団である。日頃から騎士としての厳しい鍛錬を積んでいる者たちだ。その違いがあっさりと表面化されたのだ。

さほど時間を要さずに勝負の決着がつき、第一騎士団の者達は全員死ぬことなく捕らえられた。


「勝負あったな。ジオルド・・・・・」

「くそっ!」


ひたりとジオルドの首筋に剣を付きたてて、アイゼンは冷ややかにそう告げた。
ジオルドは悔しげに悪態を吐き捨てた。


「さぁ、皇帝の居所を教えてもらおうか?」

「・・・・・・・・」

「答えよっ!ジオルド!!!」

「答えられんな。上の者の命でもなくば、口を開くことなどできん」

「おのれっ!必要な時にだけ騎士気取りか!!」


ふいっと顔を逸らしてジオルドはふてぶてしくそう言葉を継げた。
アイゼンはそんなジオルドを忌々しげに睨み付けた。

両者の間を険悪な空気が取り巻き始めたその時―――


「ならば、上の者の命があれば貴様は口を開くのか?」


凛とした声が鋭利に放たれた。


「?アルビス??」

「ふんっ!もちろんだ、アルビス・ガバナー。ただし、そのような地位に相当する者がいればの話だがな」


普段と雰囲気のことなるアルビスに、アイゼンは訝しげに眉を寄せた。
ジオルドはそんなアルビスの様子に気づくことなく、凶悪な笑みを浮かべて答えた。

アルビスはジオルドの挑発的にも取れる言葉を聞くと、にっこりと素晴らしく素敵な笑顔をその顔に浮かべた。


「なら、さっさと皇帝の居所を吐けっvv」

「・・・・は?」

「くくっ!とうとう頭がいかれたか?ガバナー。私は上の者たちの命しか聞かぬと言ったのだぞ?何故貴様如きの命を聞かねばならぬ?」

「はぁ・・・・愚かなのは貴様よ、ジオルド。以前に一度だけ顔を会わせたことがあるが、覚えていないのか・・・・。とんだ鳥頭だな、貴様は」

「なんだとっ?!」


アルビスは呆れたようにジオルドを見下ろした。
如何にも馬鹿にしたような視線を送ってくるアルビスに、ジオルドは気色ばんだ。

アルビスはやれやれと緩く首を振ると、懐を漁って一つの指輪を取り出した。


「これ、なぁーんだ?」

「は?そんな指輪が何だという―――っ?!そ、それはまさか・・・・・・」

「おー、やっと気が付いたか・・・・・・よかったなぁ、呆け寸止まりで」


あることに気が付いたジオルドは、信じられない者を見るかのようにアルビスを見つめた。
その顔は蒼白を通り越して真っ白である。


「それは、ランバート家の家紋っ?!なっ、・・・・・貴様、は・・・・・・」

「当たり。・・・・・俺の本当の名はアルバトス・ジーク・ランバート。五大貴族が一つの頭首にして、総取締り役だ。―――さぁ、我が問いに答えよ。ジオルド・レトナースレット」


アルビスが本名を名乗った瞬間、ざわりとその場に居合わせた者達全員が驚愕に揺れた。いや、一名だけ驚かなかった者もいる。それはアルビスの対的立場にいるシルフであった。

五大貴族。それはコーセント帝国における財・規模・影響力・地位を兼ね揃えた貴族の中の頂点に立つ五家のことを指す。そしてこの五家は政治においても皇帝の次に発言力を持っているのである。
ランバート家はその中でも最も力の強い家で、同じ五大貴族と呼ばれる貴族達の中心となり、纏め役を担っている。
アルビスはその家の若き頭首。実験を握っている者―――つまりはとぉーっても偉い人物なのだ。

そんなど偉い人物から詰問されるジオルドは、震える唇で途切れ途切れにやっとの思いで言葉を紡いだ。


「やぁーっと皇帝の居場所を吐きやがったよ、あのオヤジ。全く手の掛かる奴・・・・・・・・」

「ふっ。だが、お陰で皇帝の居場所が直ぐにわかった。感謝するよ」

「あぁっ!んなことに一々感謝しなくていい!!さっさと皇帝陛下を助け出すぞ?」

「心強いな」

「言ってろっ!」


アルビスの正体を知って他の者達が少々遠巻きについて来る中、シルフはアルビスに並走して先陣をきっていた。

謁見の間の大きな扉が見えてくる。
そこに皇帝は捕らえられているのだ。


バンッ!!という盛大な音共に、謁見の間が大きく開かれる。


謁見の間にいた者達の視線は入り口の扉へと集まる。


「おやおや、第二騎士団の皆様ではありませんか。断りも無く謁見の間に押し入るなど、許されることではないですぞ?」

「ご冗談を。皇帝を捕らえて立て篭もっている輩を無視することなど、国に仕える騎士団の者としては見逃せないものがありますから・・・・・・」


やたらご丁寧な言葉遣いで話し掛けてくるおっさんに、アルビスは嫣然と笑って応じた。


「これは異なことを申される。何処を見て皇帝を捕らえて立て篭もっているなどと仰りになられるか?アルバトス・ジーク・ランバート卿?」

「そういうことは皇帝の首に添えた剣を引いてから言うのだな、ダガート・ザッハ・ナレイゼン。貴様が五大貴族の内の一家の頭首だとは嘆かわしい。その所業は明らさまに反逆行為だ。大人しく捕縛されろ」


アルビスが五大貴族を纏め上げるランバートの頭首であると知っていて尚、ダガートと呼ばれた壮年の男は悠然と笑った。


「なに、皇帝が死ねばいくらでも下の者は捻じ伏せることができる」

「愚かな。他の五大貴族の者達をなんとする?それに、皇帝が仮に死んだとてその息子が存在する。貴様の栄華など、永久にくるわけがなかろう」

「別に、私は上に立ちたいわけではないのですよ。ただ今の政治の内容が気に食わないだけ。上なら貴方が立てばいい。皇子を屠り、共に栄華を築きましょうぞ!!」

「救いようがないほどに愚かだな、貴様は・・・・・・」


権力に溺れるダガートをアルビスは感情の見えない瞳で睨みつけた。
見切りをつけたアルビスは、その手を剣の柄へと伸ばす。
それに気が付いたダガートは、咄嗟に皇帝を人質に取る。


「おっと、少しでも妙な動きを見せれば、即刻この方の首が胴から離れますぞ?」


勝利を確信したような高揚とした表情でダガートは言い放ったその瞬間

パリィィン!!!

甲高い破砕音と共に謁見の間の一部のガラスが砕け、一つの人影が飛び込んできた。


「なっ、何が・・・・ぐぇっ!!」


急の事態に唖然とするダガートをその人影は容赦無く踏み台として踏みつけ、皇帝を取り囲んでいた者達を素早く斬り伏せた。


「げぇほっ!ごほごほっ!!ぐっ・・・何奴?!」


大いに咳き込みつつ顔を上げようとしたダガートは、チャキッ・・・・とその首筋に剣を突きたてられることによって動きを止めた。


「ダガート・ザッハ・ナレイゼン。申し開きをするのなら今しかないぞ?――といっても、このような状況では申し開きをしたところで罪状が軽くなるとも思えないが・・・・・・・・」


そう言って剣を突き立てる侵入者の正体は、シルフであった。
実は、皇帝が人質に取られることを想定して、シルフが奇襲をかける作戦を立てたのだった。
この場にシルフの姿が見えないことを気づかせないために、アルビスが会話を率先して行っていたのだ。
彼らの目論見は成功し、一気に形勢は逆転した。

ピリピリとした緊張感が部屋の空気全体に広がる。
―と、そんな空気を見事ぶち破ってくれた者がいた。


「おぉっ!シルフォード、来てくれたのかっ!!!」


は?シルフォード?そんな名前の奴、この場にいたか??

その場にいた者達は揃って内心で疑問の声を上げた。
問題発言をかましたのは、つい先程まで人質に取られていた皇帝陛下その人。
その発言に対して返答したのはシルフ。


「騎士として活動しているときはシルフと呼んでくださいと申し上げたはずだ。父上」


キシトシテカツドウシテイルトキハシルフトヨンデクダサイトモウシアゲタハズダ。チチウエ


「・・・・・・・・」

「「「「父上ぇっ?!」」」」


ここにも問題発言をかましてくれやがった奴が一人。


「う、うむっ!済まない、シルフ・・・・・・・・」

「今更言い直しても遅いです。ほら、皆固まってしまっている。・・・・大体、何をあっさりと捕まっているです?昔は剣皇と謳われるほどの腕前を持っていたというのに。全く嘆かわしい・・・・・」

「いや、なに。お前が助けに来てくれるだろうとあたりをつけていたから、何も抵抗せずに捕まっていたのだがな・・・・・・・・」

「そんなことを言うと、今度からは動かないことにします」

「わ、悪かった;;」


一方的な親子喧嘩に、周囲の者達はぽかんと口を開けて見ている。
そこで漸くシルフも現状に気づき、ぱたりと会話を止めて皆の方へと向き直り、優雅に一礼した。


「申し送れました。私の本当の名はシルフォード。シルフォード・ヴォルフ・リア・クロイツェン・コーセントです。」

「お、おいっ!」

「確か、その名前って・・・・・・」

「コーセント国第一皇子の名前だ」


騒然とした空気の中、アルビスは至って普通にシルフの地位を告げた。


「皇子・・・・・・・・」

「あのシルフが・・・・・・・」


なんか不条理だ。

騎士団の中で一・二を争う問題児が、揃いも揃って実はいいところのボンボンだったなんて・・・・・・。
だからなのか?彼らの行動が自己中心的なのは??


「おい、アルビス・・・・・いや、アルバトス卿か?シルフの正体を聞いても驚かないようだが・・・・知っていたのか?」


困惑しつつ、アイゼンはアルビスに問い掛ける。


「あー、今まで通りアルビスって呼び捨てにしていいから。・・・・・・で、もちろん知っていたさ。俺は若いっつっても一応ランバート家の頭首だぞ?皇子の顔を知らないわけがないだろう?」

あぁ、確かに。

アルビスの言い分も最もなので、周りの者は納得したように頷いた。


「あ〜、で?何でお前達はんな戦いの最前線に借り出されるような第二騎士団なんかにいるんだ?別に態々死地に行くような危険を冒す必要がないだろう?何ならそういった危険性の少ない第一騎士団とかに入ればいいはずだ」

「は?団長。それ、本気で言ってるんですか?貴族だからって護られたり、安全な所にいないといけないなんて決まりはないじゃないですか。それって偏見ですよ?」

「そうそう。私たちとて民を思う心はあるんですよ?そこら辺の腐れ貴族達と一緒にしないでください」

「おい、シルフ。それだと何だか白々しく聞こえるぞ?いっそのこと利己的な理由だって言った方が納得してもらえるんじゃないか?」

「ふーん?例えば??」

「目障りなものは自分の手で排したいから騎士になりました。とかさ・・・・・・・」

「ははっ!あながち外れてはいないな、その言い分」

「だろ?」


歯に衣を着せない二人の遣り取りを聞いて、『あぁ、きっとこの人達が例外なんだ・・・・・・・』と思った者達は少なくない。
こんな庶民くさい貴族がそうゴロゴロされていてたまるか。いや、そっちの方が助かるのか?
不毛な悩みは彼らの脳内で無限にループしている。


「まっ!そんなことはどうでもいいから・・・・・・・」

「これからも宜しくお願いするぞ」




「「第二騎士団の皆さん?」」




二人は不敵な笑みをその口元に浮かた。











コーセント帝国第二騎士団の受難の日々は続く―――――――。