〜序章〜 |
人は初め人でしかなかった。 人は人としての力しか持っておらず、万物を操る力などその頃は持っていなかった。 それは人間がとても欲深い生き物であると言うことを、彼らを作り出した創造主自身が一番よくわかっていたためであった。 しかし、人間の欲の深さは創造主の予想を遥かに上回った。 彼らは力を欲し、人の上に立つことを好み、そして恐ろしく強欲であった。 そしていつしか彼らは同じ種族でありながら貶め、貶められる関係になり荒んでいった。 そんな彼らを見て、創造主は危機感と共に危惧した。 闇に属する者達が心身ともに荒んでいる人間達に目をつけはしないかと―――――。 そしてその危惧はすぐに現実のものとなった。 闇に属する者達が人間達の負の心を利用して邪悪なる生き物を作ろうとしたのだ。 人間の心は強くもあり、酷く脆くもある。 負の力は瞬く間に――――そして甚大な量が集まった。 その集まった負の力によって生まれたのが邪神ヴァスタローテ。 冷酷無慈悲にして絶大な力を誇る、人間が創り出した神。 荒廃し尽した世界に生まれた神は己が周りにある命を狩り尽くした。 そして新たな命を狩に彷徨い始めた。 人々は自分達が生み出した神を恐れ、怯えた。 それによってまた負の力が生まれ、邪神はまた力を増し、人々はさらに恐れるという悪循環に陥った。 人々は最早止める術を持たなかった。 狩るか狩られるか―――――神と人間の関係はそれでしかなかった。 しかし、それを見ていた創造主が何もしないわけがなかった。 人々の荒れように憂いていた創造主は、ある八人の人間に目を留めた。 荒みきっていた人間たちの中に穢れることなく光を放つ存在がいることに気づいたのだ。 闇に飲み込まれることなく、己をしっかりと保ち、逆に立ち向かう強い心を持った人間。 創造主はその八人に邪神を倒すための力を与えることにした。 彼らに神具を与え、万物を操る力――――魔法を授けた。 神具は剣・槍・斧・弓・盾・鏡・杯・天秤の八つであった。 神具を与えられた八人は魔法の力をもって地上に蔓延る魔物を排除し、神具をもって邪神を世界の中心に封じ込んだ。 邪神を封じ込んだ際に、神具は地上の邪気も一掃した。 その際に神具の力が人々の中に残り、普通の者の中にも魔法を扱える者が現れた。 恐怖から開放された人々は八人の英雄に感謝し、創造主に感謝した。 八人以外にも魔法を使えるようになった者達も、決して悪用しないことを誓った。 その後、邪神を封じるために使った神具は八人がそれぞれ持つことになり、八人はそれぞれ国を興した。 その国は大国となり、周りには小さな国が取り囲んだ。 そして神具は代々その血族の者のみに受け継がれていった。 邪神を封じる役目と共に―――――。 そして、あれから遥かに時が経った現在。 風を操る一人の魔法使いがいた。 それがこのお話である。 歴史は人と共に刻まれる――――――。 2006/2/13 |