陽光を思わせる金色の髪が、そよ風に吹かれてキラキラと輝いている。
その金色の髪の持ち主である、シャン・レドガリアはとても嬉しそうに笑みを浮かべている。
「君がシーザーと一緒に来るなんて意外だったなぁ〜。いつ知り合ったんだい?」
「二日前」
「・・・・ということは、ガレスタシアの国境辺りで会ったということか・・・・・・・ウォール、もしかして赤霧の盗賊団の掃討の最中に知り合ったなんて言わないだろうね?」
もしかしてと言いつつも、シャンは確信に満ちた目でウォーリッヒへと視線を遣る。
ウォーリッヒはそんなシャンの言葉を聞いて、やや大げさな素振りで驚きに目をまんまると開いた。
「うわぁ〜!見てないのによくわかるねシャン♪もしかしなくてもその通りだから。そうだよね!シーザー団長?」
「あぁ、確かにな・・・・・・って、何さり気無く殿下のことを呼び捨てにしてるんだよお前!」
「というか、お前もつい先程、どさくさに紛れて俺のことを呼び捨てにしてたぞ?」
「う゛っ、そ・・・・そうだったか?」
つい先程、シャンの唐突な登場に驚き、大声でシャンのことを呼び捨てで呼んでしまったことを思い出したらしい。
シーザーは誤魔化すように、視線をあらぬ方向へと泳がす。
はっきりいってバレバレだ。
「人のこと言えないじゃん!」
「うるせぇ!俺だってあれは失敗だったなぁと思ってるんだよ!一々指摘すんじゃねーよ!!」
認めた。
恥ずかしさのためか、シーザーは頬を紅くしつつウォーリッヒに食って掛かる。
そんなシーザーに、ウォーリッヒは『はんっ!』と鼻で笑って意地悪げに言葉を続ける。
「うわぁ・・・逆切れ?僕はただ本当のことを言っただけまのにな〜。大人気ないぞ?シーザー・団・長♪」
「てめっ!人をからかうのも大概にしろよ!?」
「はい、はい。ストーップ!二人ともちょっとだけ口を閉じようね?もうすぐ彼がくるからね?」
「は?誰だよ彼って?」
「・・・・・・この魔力・・・・・もしかしてラディアス?」
軽口の応酬を中断させるシャン。
それを訝しく思った二人だが、近づいてくる人の気配に『なるほど』と頷く。
こちらへと近づいてくる魔力の気配を探っていたウォーリッヒが、その覚えのある魔力を思い出してシャンに尋ねる。
そのウォーリッヒの問いに、シャンはにっこりと笑んで答えた。
「正解!しかしよく覚えてるね〜。彼と最後に会ったのも三年前だろ?」
「うん、まぁね。一応、一年半は共に過ごした仲だし・・・・・」
「くぉらあぁぁシャン!!貴様、なに仕事を俺に押し付けておいて、自分はのうのうと話に花を咲かせてやがるっ!!!」
猛然と走り寄ってきたラディアスは走ってきた勢いをそのままに、身軽に地を蹴った。
どげしっ!!!
鮮やかなドロップキックがシャンの脇腹へとのめり込む。
「ぐふっ!!」
シャンはくぐもった叫びと共に、綺麗に磨き上げられた床へと転がった。
ラディアスは猫を思わせるような、しなやかな動作で綺麗に着地する。
―――仮にも皇子に手を(いや、足だけど・・・・)を出していいんですか?
床に転がって悶絶しているシャンを眺めつつ、ウォーリッヒとシーザーは異口同音に内心でつっこんだ。
「ふ〜ぅ。あ〜すっきりした!」
(((ただの鬱憤晴らしかいっ!!)))
図らずとも、ラディアスを除いてその場にいた全員の内心の声が綺麗に重なった。
「つつっ!あ〜、痛いじゃないかラディアス。私はこれでもここの皇子なんだけどねぇ?ここにいたのがシーザーやウォールじゃなかったら、君は即刻牢屋行きだよ?」
「いや、いや。お前の傍にいるのがこいつらだとわからなかったら、いくらなんでもドロップキックはかまさねーよ。精々チョーク投げで終わるさ」
一体どこの世の中に、チョークなんか持ち歩く人がいるんですか?
「あははっ!見ないうちにすっかり毒されてるねぇ〜♪久しぶり!ラディ」
「誰が好き好んでボケ染みたツッコミ役をやるんだよ!全てはこいつの所為だ!こいつの!!」
些かからかいを含んだウォーリッヒの言葉に、ラディアスは噛みつかんばかりの勢いで抗議する。
「ひどいなぁ〜ラディアス。まるで愛を感じられないよ?」
「感じられて堪るかっ!!!」
「はい、はい。ラディの言いたいことはよくわかったよ。で?まさかシャンと漫才をするためにここに来たわけじゃないんでしょ?」
「当たり前だ。お前がこっちに来るってことをつい先日聞いたからな。俺とて旧友に会いたいと思うのは自然だろう?それをどっかの馬鹿皇子が人に政務を押し付けておいて、お前と悠々と会話をしてれば飛び蹴りの一つや二つや三つや四つ位お見舞いしたって仕方ないだろう?」
段々数が増えてますから。
「ラディ。一つや二つは仕方ないだろうけど、流石に四つは多いと思うよ?」
そういう問題でもない。
「ウォール、ラディアス、君達私のことを一体なんだと思ってるんだい?」
「「脱走癖のある、面の皮が厚い皇子」」
「何も息を合わせて答えなくても・・・・・・」
「何言ってるの、たまたまだよ」
「そうだ。たまたまだ、確信犯のお前と一緒にするな」
実に息の合ったコンビである。
そんな遣り取りを蚊帳の外状態になっているシーザーは唖然と眺めていた。
「ウォーリッヒ、お前本当にシャンと知り合いだったんだな・・・・つーか、ラディアスとも知り合いだったのか?」
「え?あぁ、うん。シャンとは前に話した通り、三年前に知り合ったんだよ。ね?シャン」
「そうだな。しかしあの時は助かったよ、一時はどうなるかと思った」
「またまたぁ!あの時僕が手助けしなくても、シャンだったらきっと相手をあっさりと昏倒させること位できただろうしね」
「おや?わかってて手を貸してくれたのかい?」
「生憎、手助けしろと煩い下僕がいるんでね・・・・・」
だったらそいつが助けろと言わなかったら、お前は助けなかったのか?
シーザーとラディアスは同時に胸中で疑問の言葉を呟く。
「というわけで、シャンと知り合いなのは本当のことだよ」
「いや、むしろ何でそんなにフレンドリーな仲なのか俺は知りたい」
「――で、次はラディとの間柄についてだけど」
スルーしやがった。それはもう、綺麗スッパリと。
「まぁ、ラディって読んでる時点でそれなりに仲はいいと察しがつくとは思うけど、僕とラディは魔法学校で一時期一緒に勉強してた時があったんだよねぇ」
「は?・・・・・ってぇことは、最低でも二年半よりは前ってことになるのか?」
ここで補足をしよう。
ラディアスはウォーリッヒと同じ、魔法使いである。階級は上級魔道士
しかもただの上級魔道士ではない。大国一つにつき一人が仕える上級魔道士―――八本柱の一人である。
八本柱とは、上記の通り大国・・・厳密に言えばその王族に仕える専属の魔法使いのことを指す。
八本柱は35人の上級魔道士の中から8人選ばれる。その基準は大魔道士に匹敵するほどの力を有していることである。
力と一口に言っても、それには様々な種類がある。
魔力はもちろん、知識、状況判断能力、決断力・・・・・様々な能力を兼ね揃えた人物8人が選ばれるのである。
ラディアス・ダージンその人も、その八本柱である。
そして、彼がこの国の八本柱としてやって来たのが二年半前。
つまり、それ以前でなければウォーリッヒとの接点はありえないのである。
「二年半に一年半を足して、最低でも四年前・・・・・ウォーリッヒ、お前一体いくつだ?」
「んーと、四年前だと十三歳になるね」
「ほ〜。となると、お前今は十七歳か?見た目じゃあ良くて十五・六にしか見えないぞお前・・・・・・・ん?待てよ、そん時に一緒に勉強?」
補完話その二。
魔法学校には入学の際の年齢制限がない。つまりは何歳からでも入ろうと思えば、いくらでも学校に入ることができる。
ただし、入学より十五年が経っても学校を卒業することができなかったら即退学させられる。
魔法学校に入学する平均年齢は十二〜十五歳である。卒業までは最低でも七年かかり、例外で飛び級で学年を上がる者もいるが殆どいないと言っていいだろう。
ちなみに、ラディアスは現在十九歳。
彼が魔法学校に入ったのが十一歳の頃。そして飛び級に飛び級を重ねて十五歳には学校を卒業するという偉業を成し遂げた天才児。更に一年半という月日で上級魔道士の八本柱の一人として選ばれるまでになった。
百年に一度の逸材だと専ら言われているらしい。
さて、もう一度ウォーリッヒの言った言葉を思い出してみよう。
『僕とラディは魔法学校で一時期一緒に勉強してた時があったんだよねぇ』
一緒に。
そう、一緒にである。
先程も話しただろうが、ラディアスは十五歳の時に魔法学校を卒業している。
ウォーリッヒはその魔法学校時代に彼と一年半共にに学校生活を送っていたという。
そしてこの月日を逆算してみよう。
二年半+一年半+一年半=五年半 → 十七年(ウォーリッヒの年齢)−五年半=十一年半
・・・・・・・・・・・。
どう多く見積もっても、当時のウォーリッヒはまだ十一歳である。
そんな彼が、天才児と呼ばれたラディアスと行動を共にした。
(どっちが天才児だ?!)
そこまでの思考に漸く辿り着いたシーザーは、顔を引き攣らせた。
「あの頃は楽しかったよね〜!」
「全くな。お前、専門分野じゃないのに俺の属性系統の術の研究してたよな・・・・・・」
「え?だって『影』の属性の魔法使いなんて滅多にいないし、専門外でも研究するのは楽しかったからね」
ちなみに、この会話でもお分かりのことだろうが、ラディアスの生まれつきに有している属性は『影』である。数多いる魔法使いの中でも、片手に満たないか位の人数しかいない属性なのだ。
そしてウォーリッヒ。はっきりいって彼の行動は正に前代未聞だ。
自分の属性でもない『影』の術を調べたところで、普通は扱えるはずはないのである。
そんな役にも立たない知識を増やしてどうするのかと、周りの者達はウォーリッヒのことを嗤った。
まぁ、実際はその後に閉口させられるような衝撃的なものを見せ付けられたのだが、その話は割愛しておこう。
「まぁ、そうやって興味本位で知識を増やしてるから、こいつの頭の中ははっきし言って凄いぞ?」
ウォーリッヒの頭に手を置き、ラディアスは口の端を上げながらシーザーへと話し掛ける。
「まぁ・・・・よくわからんが、わかった。こいつが規格外だってことはな」
「むぅ・・・・何だよ、人を超人か何かのように・・・・・・」
(((いや、色んな部分でとうに人を超えているだろうが;;)))
疲れの滲んだつっこみが、三人の胸中を通り過ぎた。
「まぁ、立ち話もここまでにしよう。シーザーもここまでウォーリッヒを案内してきてくれてご苦労だったね」
「まぁな。当初の目的からはかなり離れたが、一応シャンとは知り合いみたいだしな。・・・・で?こいつはどうすればいいんだ??」
「ん?・・・・あぁ、そうか。シーザーは何の事情も知らないでウォールをここに連れて来たのか。ウォール、本当に何も話さなかったのかい?」
ウォーリッヒの扱いについて、シーザーはシャンに尋ねる。
事情も何も知らないらしいシーザーを見て、シャンは納得した様子でウォーリッヒに問いかける。
「んーと、大雑把には説明したよ?」
「何て話したんだい?」
「ガレスタシア国の知り合いに、お使いで剣を届けに行こうとしてるって話した」
「・・・・・それはまた、何と言うか・・・・・・・」
「はぁ〜。ウォール、お前それじゃあ何も話していないのと同じだぞ?」
「そう?」
「「・・・・・・・・・」」
ウォーリッヒの言葉を聞いた途端、シャンとラディアスはそれぞれ額に手を当てた。
はぁ〜〜と重い溜息を零す。
そんな二人の様子に、ウォーリッヒは不思議そうに首を傾げている。
「・・・・おい、話が全く見えないぞ?」
「う〜ん、これはどう説明したらいいんだろうね?ラディアス」
「俺に振るな。報せはお前に届いたのだろう?お前の口から言え」
少々困惑顔で後頭部をカリカリと掻きながら、シャンはラディアスに助けを求める。
が、ラディアスは素っ気無い返事で切り捨てた。
「あ〜、まぁ、簡単に言うと・・・・・・・」
「簡単に言うと?」
「ウォーリッヒのお使いっていうのはね、『神具』を魔術師の塔からここまで運ぶことなんだよ」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・まじか?」
シーザーはあまりのことに、そう一言呟くことしかできなかった。
2006/6/29 |