〜7.旅は道連れ・・・・?W〜








再びカトルの森へ向けて歩き出したウォーリッヒ達は、目的地一歩手前の小さな峠へと差し掛かっていた。

ここを過ぎれば後は目的地へ一直線!という所まで来て、彼らは運悪く狼の姿に似た(しかしその体格は一回りも大きい)魔物の群れと遭遇してしまった。
しかも、小規模な群れではなく、一体どこにこれだけの数が住んでるんだ?!と言いたくなるほどの大規模な群れであった。

各々の武器を携え、彼らは一方的な戦闘を行っていた。
ちなみに、どちらにとって一方的なのかというと・・・・


「はぁ・・・・こいつら、魔物のくせに弱っちいわね〜」

「まぁ、彼らは生粋の魔物ってわけじゃないみたいだし・・・・、かなり血が薄いね。感じる魔力なんて塵ほどにしかないよ。これじゃあ弱くて仕方ないって」

「えっ!そうなの?!」


レジル・ベリア・アルヴァなどの使い魔を初めとした魔物と呼ばれる彼らは、その身に内包する魔力の容量によってそのランクづけの上下が決まる。
純潔種であるほど、その内包する魔力の量が膨大となり、それに比例して強さも相当に強い。
つまり、混血(この場合は魔物同士ではなく、魔物とこの世界に生きている動物と称される生き物の交配によって生まれたものを指す)になればなるほど魔物としての血が薄まり、それに応じて魔力の量も減っていくわけである。
しかし、同じ純潔種の中でも強さには上下がある。純潔種といっても元々の魔力の量が少ないものもいれば、そんなにあっても無駄なんじゃね?と言いたくなるほど大量の魔力を保持している魔物がいるのだ。
なので、彼らにとっての上下関係の決定は、全てその個体が持っている魔力の絶対量によって決められるのである。

そして先ほどの会話の内容へと戻る。
つまり、今ウォーリッヒ達を襲っているのは混血種・・・それもかなり血の薄まった魔物である。もっとわかりやすく言ってしまえば、見てくれだけがでかいただの犬っころと大差ないというわけだ。


「だからって気を抜かないでくださいよ?!カッツェ!彼らは弱いですけど、その分無駄に図体がでかくて数が多いですから!!」

「・・・・依頼主、あまり前に出てくれるな」


まぁ、今までの会話からもわかるように、戦況はウォーリッヒ達に有利なのはわかってもらえただろう。


「お仕事とはいえ、動き回る彼らを護衛するのは大変そうだね?ゼルム」

「・・・・あぁ・・・・・」


ゼルムは襲い掛かってくる魔物を一太刀で斬り捨てると、ロゼフの方へと向かおうとする魔物を振り返りざまに斬る。
と、忙しなく動いているように見える彼であったが、実は護衛対象が二人もいる割りに全然動いていなかったりする。その理由としては、その護衛対象が大きく起因している。
何故かというと・・・・・


「ほんと、護衛のし甲斐がない雇い主さん達だね〜」

「・・・・・・・・・」


ゼルムの雇い主――カッツェ達を眼で追っていたウォーリッヒは、そう一言感想を漏らした。
彼の足元や肩に控えている使い魔達も、うんうんと頷いて彼の意見に同意を示している。
彼らの視線の先にある光景はというと――?


「鬱陶しいのよ!さっさと去りなさい!!」

「あぁ、薬の失敗作の処分ができて有難いですねぇ」


投擲用の細身のナイフを目や足の裏など、比較的防御の薄い部分をピンポイントに狙ってザクザクと串刺しにしているカッツェと、見るからにおどろおどろしい色合いをした液体の入った試験管を羽織っているコートから取り出しては、投げつけているロゼフの姿があった。
二人とも、それは素晴らしいほどの笑顔で自分達に襲い掛かってくる魔物達を、一切の容赦なく撃退していた。


「うわー、一体どんな配合をすれば、体がシュワシュワいいながら溶けていくんだろ?」

「・・・・・・失敗すれば?」


ウォーリッヒの疑問に、ゼルムは至極尤もな返事を返す。
確かに、薬(と呼ぶのにも抵抗がある液体)の製作者であるロゼフ自身が『失敗作』と言っているのだから、配合を失敗してできたものなのだろう。しかし、ただ薬の配合を間違えただけで、骨さえも残すことなく融解してしまう薬など果たしてできるものだろうか?意図的に作ろうとしても無理があるだろう。
しかし、そこに関して突っ込むような人物はこの場には存在しなかった。


「うわぁ・・・・ご主人様、あれ見てよ!薬がかかったらぶくぶくと水ぶくれみたいに膨れ上がっていくし・・・」

「へぇ、大きなおできみたいだね。・・・・痛そうだね」


実際、かなり痛いのだろう。薬をかけられた魔物は世にも情けない鳴き声を上げながら、地面をのたうちまわっている。
そんな魔物を見て、ウォーリッヒの肩にとまっているレジルは冷ややかな一瞥を投げ捨てる。


「あれをまともに浴びるなんて、愚鈍な方達ですねぇ。主、万が一にもあの得たいの知れない液体がかかるといけませんので、もう少し彼らから距離をおきましょう」

「・・・・レジルよ、少々過保護なのではないか?」

「何をいいますかアルヴァ。備えあれば憂いなし。もしあれが爆発などしたりして飛び散ったら間違いなく、ここまで届きますよ?」


パリィィン!!

案の定と言うべきか、試験管ごと飛んできた薬はウォーリッヒ達が立っている所のすぐ近くの地面に落ち、叩き割れてその中身が散乱する。


「うわっ!中身がこっちに飛んできたっ!?」

「そんなに慌てなくても大丈夫だよ、ベリア。僕達の周りに簡易結界を張っておいたから。余程のことがない限り安全だよ?」

「い、いつの間に・・・・;;」

「備えあれば憂いなしってね♪ね、レジル?」

「当然ですね。むしろ常時結界を張り巡らせていてほしいくらいです」

「いやいや、流石にそれは魔力の消費量が激しいから・・・・・」


常に面白事もとい危険事に首を突っ込みたがる主に、レジルは常々思っていたことを口にする。
が、その要望をウォーリッヒは即行で否定する。けれどもレジルは引くことなく更に言葉を重ねた。


「何を言っているんですか。この程度の結界を一日中張り巡らせていたところで、貴方の目減りする魔力の量など、雀の涙ほどのものでしかないでしょうに・・・・・・」


一体どれだけ魔力が膨大にあるんだ?!


「・・・・雀の涙って、目減りするって言えるほどの量なの?」


突っ込むところが違うだろっ?!


「・・・・というからには、一日中張れるんですね?」

「えー・・・・やだよ、面倒臭い」


面倒臭く思わなければ張れるのかっ?!

などなど、ツッコミどころが満載の会話が、ウォーリッヒとレジルの間で交わされる。
ちなみに、彼らがのんびりと会話を交わしている間、他の二匹は魔物達を睨みつけて牽制し、その動きを完全に封じている。
先ほどからウォーリッヒがのんびりしていられるのも、偏に彼らの働きによるものであった。

そうこうしているうちに、魔物達の数は減っていき、とうとう最後の一匹となった。
しかし、ここで最後の一匹は予想外な行動をとった。
ゼルムと対峙していたそれは何をとち狂ったのか、なんとウォーリッヒの方へと唐突に標的変更を行ったのだ!彼のすぐ傍に控えている使い魔達など視界にもとめずに、真っ直ぐにウォーリッヒ目掛けて襲い掛かってくる。

そのことに気づいた使い魔達はいつでも魔物の前に飛び出せるように身構える。
しかし、その動作もウォーリッヒが呪文を唱え、攻撃に移るまでの間であった。


「生命に温もりを与える炎の神よ!降り注ぐは無数の弾丸。襲い掛かる脅威を打ち砕け!!」


その呪文は以前騎士団団長であるシーザーが、岩を砕くために唱えたそれと同一のものであった。
呪文の詠唱が終わると同時に、無数に生み出された拳ほどの大きさの火球が一斉に魔物目掛けて放たれる。
一直線に突き進むそれらを、魔物は駆けるスピードを落とすことなく全て除けきった!


「避けたっ!」

「お下がりくださいっ、主!」

「愚か者が。主殿に触れる間も無く、消し去ってやろう・・・」


ウォーリッヒの攻撃を避けきってこちらへと向かってくる魔物に、今度こそ彼らは迎撃体勢をとった。
しかし、そんな使い魔達にウォーリッヒは間延びしたような返事を返す。


「大丈ー夫、大丈夫!よっと」


ウォーリッヒがそう言葉を漏らした瞬間、ギュン!と魔物が避けた筈の火球達が、方向転換して魔物を背後から攻撃した!
もちろん、ウォーリッヒが先ほど唱えた魔法にそういった追尾効果があったわけではない。ではどうして火球は方向転換を行ったのか・・・・・それは、彼が最も得意とする『風』の魔法を付与したことによって成された結果だ。
直線的な動きしかできない火球の魔法に、風の流れを操作することによってあたかも火球が相手を追尾しているかのように見えるのであった。
そして、その次に行われるそれも同様のもので―――


「・・・・・・・”散華”」


そうウォーリッヒがポツリと呟いた瞬間、握り拳くらいの大きさだった火球がゴウッ!と一気に燃え上がり、魔物の体を満遍なく包み込んで燃やした。炎の欠片が空気中に飛び散る様は、さながら舞い落ちる花弁のようである。

炎の勢いは衰えることなく、長々と魔物の体を焼いていた。
炎の勢いが時間が経っても衰えないのは、ウォーリッヒがその空間の空気の量を調節しているためだ。炎が燃えることによって消費される空気を、補うように新しい空気がどんどんと供給されれば炎の勢いは維持できるのだ。
無論、そこは炎の属性も持っているウォーリッヒであれば風の力など利用せずとも炎を燃やし続けることはできる。しかし、風を操作すれば火種さえあれば炎の魔法を使わずして炎を燃やし続けることができるという、何とも便利なのか便利でないのかわからない魔法ができあがったのである。

燃え上がる炎が消えると同時に、魔物と呼ばれていた残骸はその場に無言で崩れ落ちた。


「あー、少し・・・やり過ぎちゃったね」


少しどころの話ではない。

元の灰色の毛並みがわからなくなるほど真っ黒に焼け焦げたその体躯は、無残の一言に尽きた。しかし、微かに上下する腹を見ればその黒焦げの物体がいまだ生きていることがわかる。
実は見てくれこそかなり酷いがそれは毛の部分の話であり、本体の部分は軽い火傷程度で済んでいたりする。まぁ、それもこれもウォーリッヒが火加減と風加減?をしたからなのだが・・・・普通はこうもいかないものである。
が、そのようなミラクルな事象も、周りの者達にとっては気にかけることでもなかった。


「・・・・・ウォール」


いや、気にする者がいた。


「ん?何?ゼルム」

「・・・・・・臭い・・・・・」


臭いがしないのだが、それはどうしてなのだ?とその暗紅色の瞳が問いかけていた。
ウォーリッヒはその質問に対し、「あぁ・・・」と納得したように頷き、悪戯っ子のようにくすりと笑ってゼルムにのみ聞こえる声量で答えた。


「別に?ちょーっと風を使ってね、こっちに臭いが流れてこないようにしただけだよ?」

「あぁ・・・・・・・換気扇か?

「か、換気扇?!そんなこと考えてもみなかったけど・・・・・・・・まぁ、やってることは一緒・・・・なのかな?」


おそらく、現時点においてたった一人しか扱えない風の魔法を、換気扇代わりに使っているのは彼くらいのものだろう。本人にしてみれば、他の人に指摘されるまでそのつもりはなかったようであるが・・・・。
ある意味、目から鱗な見解をさせられているウォーリッヒの隣で、うーん、と大きく伸びをしたカッツェはぐるりと辺りを見回す。
無論、そこに動ける魔物の存在などはありもしなかったが・・・・・。


「さて!粗方敵は排除したし、さっさと先を急ぎましょう?このままじゃあ目的地に着く頃には夕暮れになっちゃうわ」

「そうですね、結構な時間足止めをくらいましいたから」


カッツェの言葉にロゼフも賛同する。
そんな二人の会話を聞いたウォーリッヒは、ゼルムとの会話を切り上げた。


「あぁ・・・後はこの坂を下るだけだし、そんなに時間もかからないだろうね」

「それならさくさく歩きましょう!宿屋のふかふかの布団が私を待ってるわ!!」

「ふかふかかどうかは、その宿屋の質次第ですね〜」

「もう、水を差さないでちょうだい!!」

「ぎゃっ!?」


一気に不機嫌になったカッツェは、ロゼフを殴り倒すとさっさと歩き始めた。

ウォーリッヒがそんな二人の遣り取りを見て、「漫才だよね〜、見ていて面白いなぁ♪同行して正解だったv」と思っていたりするのだが、当の二人は知る由もなかった。








こうして、彼らはとうとう目的の地であるカトルの森へと到着したのであった――――。













2008/3/12